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東京地方裁判所 平成3年(ワ)10287号 判決

原告

甲戸乙治

被告

斉藤コード製造株式会社

右代表者代表取締役

斉藤義和

右訴訟代理人弁護士

和久井四郎

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  原告が被告との間で、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告は原告に対し、平成三年五月以降毎月二五日限り三一万四〇〇〇円を支払え。

3  被告は原告に対し、六二万七〇〇〇円を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  2につき仮執行の宣言

二  被告

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、昭和六二年一二月七日、被告に雇用された。

2  しかるに、被告は、原告を平成三年四月二二日付をもって雇用したと主張して原告の雇用契約上の地位を争っている。

3  原告は、右解雇当時、被告から一か月二九万七〇〇〇円(支給日は毎月二五日)の賃金を得ており、仮りに右解雇がなければ、同年四月から五・五パーセントの昇給をした一か月三一万四〇〇〇円の賃金を得ることができた。

4  原告は、右解雇がなければ、被告から平成三年上期賞与として六二万七〇〇〇円の支払を受けることができた。

よって、原告は被告に対し、被告との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成三年五月以降毎月二五日限り三一万四〇〇〇円の賃金及び同年上期賞与六二万七〇〇〇円の各支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  1は認める。

2  2は認める。但し、解雇年月日は平成三年五月二〇日付である。

3  3の事実中、原告の右解雇当時の賃金が一か月二九万七〇〇〇円(支給日は毎月二五日)であったことは認める。その余の点は否認する。

4  4は否認する。

三  抗弁

被告は原告に対し、平成三年四月一九日、同年五月二〇日付けをもって解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という。)をした。

本件解雇は就業規則五六条三項(已むを得ない業務上の都合による場合)による。

すなわち、原告は、

〈1〉  被告が実施していた月一回の朝礼時、斉藤社長らが従業員に対し、訓示あるいは重要な連絡をしているにもかかわらず、「それはどうしてだ」、「その理由はどこにある」、「パーセントがどうだ」等と勝手な発言や質問をし、朝礼を混乱に陥れ、後に他の従業員に説明者の悪口をいった。

〈2〉  試験室の従業員らに対して、鈴木常務取締役、會取締役総務部長、斉藤取締役営業本部長及び奥秋二郎検査課長らの名前を呼び捨てにするばかりか、「あいつは馬鹿だ」、「ボケている」、「管理能力が無い」、「役に立たない」などと批判し、侮辱した。

原告は、製品の試験にきた得意先の社員、製品を受け取りにきた得意先の社員、外注先の社員に対しても度々右のような発言をした。

特に、奥秋課長については、「会社を辞めさせるのだ」と言い触らした。

〈3〉  試験室の従業員に向かって、「お前は馬鹿だ」、「能無しだ」、「何も分かっていない」とか意味不明の言葉を述べ、嫌がらせをし、軽蔑し、侮辱した。

また、仕事の打ち合わせをしている最中に、「そこが哲学だ」、「ソクラテスがどうの……」と仕事と全く関係のない発言をし、他の従業員の仕事の進行の邪魔をしたり、「この会社は暴力団の集まりだ」、「お前は辞めてしまえ」、「あいつを辞めさせろ」と放言した。

さらに、試験をする製品が入ったボール箱を一定の場所に運ぶために、皆で協力して運んでいるのに、「そんなことをするのは馬鹿のやることだ、自分は検査の仕事をしていればよい」と嘯いて、腰掛けたままで協力をしない。

計尺でケーブルの完成検査をする際、導通と絶縁検査を全把(全数)検査を行なう必要があるのに、全把検査を行わず、このことについて注意を受けても、「やりたいなら、他の人間がやればいい」と放言し、無責任な言動をした。

検査合格製品を営業倉庫に入れるに際し、営業課の森清吉郎主任の指示に従わず、かえって、製品を森に投げ付ける暴挙をした。

〈4〉  女子従業員に対し、左記のような言動をした。

ア 中川邦恵に対し、退社後、駅の近くで何回も待ち伏せしたり、「お前はボケだ」、「会社を辞めろ」といい、健康診断のアンケートを書いているときに「お前は生理中か」などと嫌がらせの発問をした。

イ 竹原美津代(検査課)に対し、女子従業員のみで食事中、勝手に割り込んできたので、断ると、「ヒステリー」とか、「凡人以下」とか悪口をいった。

ウ 稲村忍(生産課)に対し、「お前は使いものにならない」と馬鹿にし、「あいつは使えない」と平気で他人の悪口をいい、會総務部長を「會はボケている」と悪口をいった。

エ 角和みかえ(営業課)に対し、出社・退社の都度、付きまとって困惑させ、鄙猥な言葉で喋り、ビデオに撮らせろと迫った。

オ 竹内由美(営業課)に対し、意味不明なことを話し掛けたり、昼食時あるいは読書をしている時に寄ってきたり、「ビデオ撮影に応じろ」と要求したり、出退社の際、執拗に誘って困惑させた。

カ 女子従業員と昼食中の川合真江(営業課)に対し、勝手に入り込んできたり、退社の際、付きまとったりした。

キ 角和加奈子(総務課)に対し、出社の際、追い掛けたり、退社の際、待ち伏せたり、仕事中あるいは食事中付きまとったり、女子従業員と昼食している部屋に勝手に入り込んできたり、自転車に同乗させるよう迫ったり、横に飛び出したりなどの危険な行為に及んだ。

四  抗弁に対する認否

本件解雇が就業規則五六条三項によりなされたことは認める。但し、本件解雇の意思表示がなされたのは平成三年四月二二日である。

被告が主張する解雇事由の存在は全部否認する。原告は、解雇事由に該当する言動をしていない。原告が業務に関する発言を諸諸にたとえてユーモアを交えながら述べたことに対し、相手方が感情的に受け止めたに過ぎず、被告も原告の行動を理性的に思考せず、感情に走り、従業員に対する見せしめのため本件解雇をなしたのである。

理由

一  請求の原因1、2の各事実はいずれも争いがない。

二  本件解雇の存在については、その意思表示のなされた日を除き争いがない。

証拠(〈証拠・人証略〉)によると、原告に対し本件解雇の意思表示がなされたのは、被告の主張するとおり平成三年四月一九日であることを認めることができる。

そこで、本件解雇事由の存否について検討する。

証拠(〈証拠・人証略〉)によると、次の事実を認めることができる。

〈1〉  朝礼時及びその後の言動

被告においては、毎月一回、東京工場食堂において、斉藤社長ないし各担当責任者が従業員に対し話をしていたが、この際、原告は、分けの分からない、あるいは関係のない質問をしたり、その二ないし三日後、女子従業員に対し、斉藤社長とか上司を呼び捨てにしたうえ、「こいつはこんな馬鹿なことをいっている」、「俺が社長になった方がいい」などと述べていた。

〈2〉  勤務態度

原告は、技術部検査課に所属し、検査員として製品の受け入れ検査及び出荷検査を担当していたが、上司の指示に従わないで勝手に作業をして他の従業員に迷惑を及ぼしたり、作業中、他の従業員に対し、「ソクラテスがどうの」、「思想がどうの」などと話し作業の妨げをしたり、製品の検査が済んで次の工程のためこれを箱に入れて持っていくべきところ「こんな箱に詰めて持っていくのは俺の仕事ではない、馬鹿のやることだから他の奴にやらせればいい」などといって上司の指示に従わずに自分勝手な態度に出ていた。

このようなことから、被告は原告を社員食堂に移し、ここで一人で作業をさせていたが、ここにおいても上司の指示に従わないで勝手な行動に出ていた。

〈3〉  女子従業員に対する言動

原告は、女子従業員に対し、その作業中、「お前は○○さんとエッチしたことがあるか」とか「俺はメス犬とやった」などと述べたり、食事中の女子従業員に対しても再三同様のことを述べたり、退社する女子従業員に対し、毎日出入口に待機していて、「一緒に帰ろう」、「お茶を飲みにいこう」などと誘い、これを断られると追い掛けるなどの行動に及び、このため、女子従業員の中には退社した者もいた。

會総務部長は原告に対し、右のような言動を注意したが、全く聞くような態度を示さなかった。

〈4〉  その他の言動

原告は、得意先の社員に対しても、原告の上司を馬鹿にして名前を呼び捨てにしたり、仕事ができないなどの悪口を述べていた。

〈5〉  誓約違反

右のような原告の言動を憂いた會総務部長は、平成二年三月二〇日、原告に右のような言動をしない旨の誓約書を提出させたが、その後も原告の言動は改らなかった。

以上の事実を認めることができる。

右認定事実によると、原告には就業規則五六条三項に該当する事由が存したというべきである。

原告は、本件解雇は被告が感情に走り、他の従業員に対する見せしめのためになした旨主張するが、このような事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件解雇は有効である。

三  よって、本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないので、主文のとおり判決する。

(裁判官 林豊)

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